伊アルプスのヤギ、温暖化で小型に

 イタリアアルプスに暮らすヤギ亜科の野生動物、シャモアが、温暖化への適応のため過去数十年で著しく小型化していることが、このほど学術誌に発表されました。

 地球温暖化により、多くの動物で体の大きさが変化していることはすでに知られています。しかし、今回の結果は研究者の予測を大きく上回っており、気候の変化が自然の仕組みに短期間で大きな影響を及ぼす可能性を示しています。それがどのような変化になるかは、まだ解明が始まったばかりです。

 英国、ダラム大学の研究チームの報告によると、高山に生息するシャモア(学名:Rupicapra rupicapra)の幼獣は現在、30年前の同じ年齢のシャモアに比べて体重が約25%減少しているといいます。

 この間、シャモアの生息地の気温は摂氏3~4度上昇しています。

 今回の論文の共著者でダラム大学の生物学教授スティーブン・ウィリス氏は、「温暖化によって、哺乳類から魚類、鳥類まであらゆる種の動物が小さくなる傾向にあることを示す論文は、この数年で山ほど出されている」と話します。

 しかしウィリス氏によれば、研究者たちは高山のヤギが短期間でこれほど大きく変化しているとは予想していなかったといいます。

◆暑さで食事どころじゃない?

 ウィリス氏によると、彼の研究チームは猟師が記録している1歳のシャモアの死体の体重を1980年代までさかのぼって調査し、体重の変化を明らかにしました。成獣ではなく1歳の幼獣を調査対象としたのは、同じ年齢同士で正確に比較するためです。1歳のシャモアの体重が確実に減少していることが分かると、今度はその要因が問題となりました。

 他の種では、地球温暖化で餌が入手しにくくなったり質が落ちたりしたことが体格の小型化に関係していました。しかし衛星からのデータでは、この数十年でイタリアアルプスの植生が減少していることは示されていませんでした。

 次いで研究チームは、シャモアの行動に注目しました。ウィリス氏は、「これらの動物は、暑いときには活動せず休息することが分かっている。したがって、おそらく気候が彼らの行動を直接変化させているのであり、食物が影響を受けたことで間接的に変化が起こったのではないという考えに至った」と説明しました。

 言い換えると、シャモアは生息地の気温が上昇する中で、餌探しに割く時間を減らし、何もせず休む時間を長くすることで体温が上がりすぎるのを防いでいると研究者らは考えています。このため体重が減り、そのことで高温に耐える能力がさらに強化されていると推測されます。一般に小型動物は体重当たりの体表面積が大きいため、大型動物に比べて熱を速く発散できるからです。

 一方、気候変動と関係のない要因も小型化に関わっている可能性があります。狩猟に対する規制が厳格化したためか、シャモアの個体群密度は上がり続けています。これにより、上質の牧草地をめぐる競争が激しくなり、1頭あたりの体重減少につながったのかもしれません。

◆小型化は良いことか

 ウィリス氏は、今回の発見は他の種や、あるいは家畜にも幅広く当てはまる可能性があると指摘しています。

「もし気候変動によって家畜の行動や体重にも同様の変化が起こるとすれば、今後数十年で農業生産が影響を受けるかもしれない」とウィリス氏は懸念しています。家畜が小食になれば、食肉の生産が減ることになるからです。

 今回の研究結果は、オンライン科学誌「Frontiers in Zoology」に9月27日付けで掲載されました。

ナショナル・ジオグラフィック

Frontiers in Zoology

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